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ルルーシュの言葉が一瞬理解できず、スザクは「え?」と、思わず口にした。 「だから、俺が生きていること自体が問題なんだ」 「何で!?」 「家庭の事情だ。気にするな」 「気にするよ!」 あまりにも平然と口にするから、悪い冗談かと思ってしまうが、冗談ではない事だけは解った。自分の勘が鋭い事をここまで感謝したのは久しぶりだ。 彼の言葉を疑う余地はない。 「また俺を狙う、か。そうだな。もし俺の生死を確認する気が相手にあったなら、その箱に発信器の類がついているかもしれないな」 「え!?」 僕は綺麗に洗って新品同様になったあの箱を手にした。 ひっくり返したり、蓋を開けて触ってもそれらしいものは見えない。ただのオルゴール機能付きの箱だ。とはいえ、螺子を回しても壊れているらしく、オルゴールは鳴らなかった。 もしかしたら奥に何かが詰まっているのかもしれない。 「この箱は上げ底だし、オルゴール部分にも何が入ってるかなど解らないだろう?分解したら出てくるかもという話だ。あるいはこの宝飾のどれかがそうかもしれない。まあ、盗聴器の類はなさそうだが」 「もしそうなら、ここに置いておけないね」 彼を探しにここに来ると言う事だ。 それも、命を奪いに。 それは許せる事ではない。 小人が来た所で負ける気はしないが、ガリバー旅行記のように身動きが取れなくなる可能性は否定できない。 「そうだな、俺には不要の物だし、ゴミにでも出したらいいんじゃないか?」 あっさりと、捨てろと言うルルーシュ。 「え!?こんなに綺麗な箱なのに?」 勿体ないなあ。と渋るスザク。 「じゃあ、大学に持っていくよ。研究室で分解してみてもいいし、僕の小物入れにしてもいいし・・・」 「好きにしろ。・・・お前大学生なのか?」 「うん」 「そうか。もっと若いかと思っていた」 高校生かと・・・ 「・・・童顔だから、良く言われるんだ」 中学時代はよく小学生に間違われたし。身長あるし、体も鍛えてるのに。 「そ、そうか。すまなかった」 どうやら自分が童顔なのを気にしているらしいスザクに、ルルーシュは思わず謝った。 「気にしないで。それよりルルーシュ残さず食べないと駄目だよ」 「・・・いや、もう十分だ」 お皿に乗せた分の半分ほど食べた所で、彼は手を止めていた。 甘いものばかりだから胸やけを起こしたかもしれない。 「じゃあ、少し休んだらいいよ。僕はその間ちょっと大学行ってくるから」 僕はクローゼットから、以前買った宝箱型の道具箱を引っ張り出すと、その中に絨毯代わりのタオルを2/3ほど敷いてからベッドと布団、テーブルと椅子を入れた。 バスルームセットからトイレを取り出し、タオルを敷かなかった平らな場所に置く。 「・・・手洗い用の水はどうするんだ?」 「・・・気にするのはそこなんだ」 とりあえずバスタブも置いて、水を満たしておく事にした。洗面器などもあるから、手を洗うには困らないだろう。 トイレットペーパーも小さくハサミで切って、小さな箱に入れてトイレの横に。小さなゴミ箱もセットしておく。 「一先ずこれで我慢して?」 細かい事はまたあとで考えよう。 その言葉にルルーシュが頷いたので、その小さな体を持ち上げ、箱の中へ移動した。最初に比べれば、お互いに慣れてきたため、移動もスムーズだ。 底の深い宝箱は彼の身長よりも遥かに高い。これって監禁にならないかなと良心が咎めたが、彼を守るためには仕方のない事だと自分に言い聞かせた。 もし誰かが忍び込んできても、まさかこの箱に小人が住んでるなんて誰も思わないだろう。それに、これだけ重厚な箱なら彼の身も護ってくれる気もする。 「お休みルルーシュ」 「お休みスザク」 そう言うと、僕は箱をゆっくりと閉じた。 とはいっても完全に閉めると窒息してしまう。中にはカメラも設置している為、そのコードが挟まり、蓋の間には少しだけ隙間があいていた。 室内を確認するには、その隙間から入る明かりで十分だった。 パソコンの画面にいる彼は、無理をしていたらしく、人目が無くなったことで緊張が解けたのか、ふらりと足取りが覚束無くなった後、ベッドに潜り込んだ。 間もなく13時。 この箱が危険な物の可能性もあるから、さっさと大学に持っていこう。 僕は戸締りを確認した後、部屋を後にした。 |