小さな世界 第5話


ルルーシュの言葉が一瞬理解できず、スザクは「え?」と、思わず口にした。

「だから、俺が生きていること自体が問題なんだ」
「何で!?」
「家庭の事情だ。気にするな」
「気にするよ!」

あまりにも平然と口にするから、悪い冗談かと思ってしまうが、冗談ではない事だけは解った。自分の勘が鋭い事をここまで感謝したのは久しぶりだ。
彼の言葉を疑う余地はない。

「また俺を狙う、か。そうだな。もし俺の生死を確認する気が相手にあったなら、その箱に発信器の類がついているかもしれないな」
「え!?」

僕は綺麗に洗って新品同様になったあの箱を手にした。
ひっくり返したり、蓋を開けて触ってもそれらしいものは見えない。ただのオルゴール機能付きの箱だ。とはいえ、螺子を回しても壊れているらしく、オルゴールは鳴らなかった。
もしかしたら奥に何かが詰まっているのかもしれない。

「この箱は上げ底だし、オルゴール部分にも何が入ってるかなど解らないだろう?分解したら出てくるかもという話だ。あるいはこの宝飾のどれかがそうかもしれない。まあ、盗聴器の類はなさそうだが」
「もしそうなら、ここに置いておけないね」

彼を探しにここに来ると言う事だ。
それも、命を奪いに。
それは許せる事ではない。
小人が来た所で負ける気はしないが、ガリバー旅行記のように身動きが取れなくなる可能性は否定できない。

「そうだな、俺には不要の物だし、ゴミにでも出したらいいんじゃないか?」

あっさりと、捨てろと言うルルーシュ。

「え!?こんなに綺麗な箱なのに?」

勿体ないなあ。と渋るスザク。

「じゃあ、大学に持っていくよ。研究室で分解してみてもいいし、僕の小物入れにしてもいいし・・・」
「好きにしろ。・・・お前大学生なのか?」
「うん」
「そうか。もっと若いかと思っていた」

高校生かと・・・

「・・・童顔だから、良く言われるんだ」

中学時代はよく小学生に間違われたし。身長あるし、体も鍛えてるのに。

「そ、そうか。すまなかった」

どうやら自分が童顔なのを気にしているらしいスザクに、ルルーシュは思わず謝った。

「気にしないで。それよりルルーシュ残さず食べないと駄目だよ」
「・・・いや、もう十分だ」

お皿に乗せた分の半分ほど食べた所で、彼は手を止めていた。 甘いものばかりだから胸やけを起こしたかもしれない。

「じゃあ、少し休んだらいいよ。僕はその間ちょっと大学行ってくるから」

僕はクローゼットから、以前買った宝箱型の道具箱を引っ張り出すと、その中に絨毯代わりのタオルを2/3ほど敷いてからベッドと布団、テーブルと椅子を入れた。
バスルームセットからトイレを取り出し、タオルを敷かなかった平らな場所に置く。

「・・・手洗い用の水はどうするんだ?」
「・・・気にするのはそこなんだ」

とりあえずバスタブも置いて、水を満たしておく事にした。洗面器などもあるから、手を洗うには困らないだろう。
トイレットペーパーも小さくハサミで切って、小さな箱に入れてトイレの横に。小さなゴミ箱もセットしておく。

「一先ずこれで我慢して?」

細かい事はまたあとで考えよう。
その言葉にルルーシュが頷いたので、その小さな体を持ち上げ、箱の中へ移動した。最初に比べれば、お互いに慣れてきたため、移動もスムーズだ。
底の深い宝箱は彼の身長よりも遥かに高い。これって監禁にならないかなと良心が咎めたが、彼を守るためには仕方のない事だと自分に言い聞かせた。
もし誰かが忍び込んできても、まさかこの箱に小人が住んでるなんて誰も思わないだろう。それに、これだけ重厚な箱なら彼の身も護ってくれる気もする。

「お休みルルーシュ」
「お休みスザク」

そう言うと、僕は箱をゆっくりと閉じた。
とはいっても完全に閉めると窒息してしまう。中にはカメラも設置している為、そのコードが挟まり、蓋の間には少しだけ隙間があいていた。
室内を確認するには、その隙間から入る明かりで十分だった。
パソコンの画面にいる彼は、無理をしていたらしく、人目が無くなったことで緊張が解けたのか、ふらりと足取りが覚束無くなった後、ベッドに潜り込んだ。
間もなく13時。
この箱が危険な物の可能性もあるから、さっさと大学に持っていこう。
僕は戸締りを確認した後、部屋を後にした。

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